「ゆめの会」
9月12日に、江南保健所主催の神経系難病患者・家族のつどい「ゆめの会」の講演会が3年ぶりに開かれました。コロナ禍のために2年連続で中止となって、同じ疾患を抱える方同士が集まって交流できる機会が減っていたところでしたので、今回は部屋満席になるほど多くの方が集まられました。このような会に呼んでいただけたことに嬉しく思います。
今回は「みんなで最新の治療を学ぼう」というお題をいただきました。最近の治療は、いま話題になっているアルツハイマー病治療薬のレカネマブに代表されるように、疾患の進行そのものを抑える疾患修飾薬というものが中心になってきます。
原因となる物質、例えばアルツハイマー型認知症であればアミロイドβ蛋白、パーキンソン病であればシヌクレイン蛋白となりますが、それを免疫物質の抗体で取り除いたり、産生自体を抑えたりして減らすことにより、疾患の進行そのものを抑えたり止めたりするものです。
すばらしい治療の様に聞こえますが、今のところは残念ながらそれほどいい結果は得られておらず、アミロイドβに対する抗体は効果が既承認薬のドネペジルよりも弱く、脳出血や脳浮腫などの副作用があることが分かっていますし、シヌクレイン蛋白を除去する治療に至ってはほとんど効果がなかったとされています。有効な疾患修飾薬が出るまでには、まだまだ道のりは遠いようです。
一方で、最近承認されたパーキンソン病治療薬の、ホスレボドパ/ホスカルビドパ水和物(ヴィアレブ®)は一定の効果がありそうで期待しています。これまでは経腸吸収薬でしたが、ヴィアレブは直接血液中に投与するもののため、血中濃度を一定に保つことができます。まだ今年の6月に承認されたばかりで、導入できるのが9月の時点で大学病院レベルに留まっていますので、これから地域主幹病院へ広がっていくともう少し導入しやすくなるかもしれません。
クスリの話しばかりになりましたが、神経難病で大切な三大治療は「薬物治療」以外に「リハビリ」と「栄養療法」があります。特に栄養療法は近年注目されていて、パーキンソン病の方は痩せる方が多く、栄養障害により筋力低下や嚥下障害を来し、悪循環になるとされています。筋萎縮性側索硬化症は、体重減少が予後不良因子にもなっています。病初期から十分な栄養を摂って運動することで、薬以上に効果が得られる場合があります。
また、在宅医療で診ている方はほとんどが進行期の方ですので、病気自体よりもそれに付随する合併症が問題になることが多くなります。その代表が肺炎と転倒・骨折です。特にパーキンソン病の方は肺炎で亡くなる方が半数を占め、その残りの半数も肺炎がきっかけで寝たきりになったり衰弱したりしますので、肺炎予防が非常に大切になります。早期から嚥下訓練をし、特に口腔ケアを行うことが肺炎の予防になります。運動して身体の動きに合わせた環境整備をすることで、転倒・骨折も予防できます。
会場からいくつか質問をいただきました。その中のいくつかは、今現在受けている治療が正しいかという不安感からくるものでした。神経疾患の治療、特に進行期には一人ひとりの症状に合わせた治療が必要になりますので、一概に正解はありません。まずはずっと診ていただいているかかりつけの先生を信頼して、よく相談することが大切なことだと思います。それでも心配であれば専門外来への紹介やセカンドオピニオンが良いと思います。